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川島簡易裁判所 昭和44年(ろ)8号 判決

被告人 米沢光弘

昭一八・一二・七生 自動車運転者

主文

本件公訴を棄却する。

理由

一、本件公訴事実は、「被告人は昭和四四年五月三日午後二時五〇分ころ兵庫県洲本市塩屋一丁目一の三六先道路において普通貨物自動車を運転するに際し、先行中の自動車が自車の進路上で一時停止したのを認めたのであるが、かかる場合対向車両の右折等に備えて進路の安全を確認し他車の進路を妨害しないようにすべき義務があるのにこれを怠り、漫然前車の左側方を通過進行し折柄右折中の対向車の進路を妨害し、もつて安全な速度と方法で運転しなかったものである。」(罰条道路交通法第七〇条、第一一九条第一項第九号)というにある。なお、変更前の本件訴因は、右公訴事実記載の同一日時場所において被告人が同一車両を運転中、危険防止のため停止中の車両等に続いて停止中の車両等の前方割込みをなした(罰条道路交通法第三二条、第一二〇条第一項第二号)旨のものである。

二、被告人に対する交通事件原票(告知書番号No.524980)および郵便物配達証明書によると、被告人は、右変更前の訴因にかかる道路交通法第三二条違反事実(以下、割込み等という)につき反則者として、昭和四四年五月三日午後二時五五分警察官から告知を受け、次いで同六月一日兵庫県警察本部長から通告を受けたが、右通告書記載の同六月一二日の納付期限までに反則金を納付しなかったことは明らかである。しかしながら、本件公訴事実である道路交通法第七〇条違反事実(以下、安全運転義務違反という)につき、被告人に対し、道路交通法第一二六条、第一二七条による告知、通告がなされた証拠はない。検察官は、右割込み等と安全運転義務違反とは反則行為の種類態様が、同一であるから、前者に対する通告の効力は後者の反則行為についても及ぶ旨主張する。なるほど、当初起訴にかかる割込み等の公訴事実と訴因変更にかかる安全運転義務違反の公訴事実とをその同一性という観点から比較すると、両者の間には基本的事実の同一性があることは認められるが、道路交通法第一二五条、同法施行令第四五条によると右両者は反則行為の種類を異にし、従つて反則行為の種別を異にしていることは明白である。しかして、道路交通法第一二七条に規定する警察本部長の通告の効力の及ぶ範囲は、反則行為の種別により限定されると解釈するのが、同法第一二七条、第一二八条、第一三〇条等の趣旨から相当であり、結局、本件の変更後の訴因である安全運転義務違反については被告人に対し通告がなされていないから、本件公訴提起は同法第一三〇条の規定に違反し無効であるといわざるを得ない。よつて、刑事訴訟法第三三八条第四号により本件公訴を棄却する次第である。

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